東京高等裁判所 昭和41年(ネ)2022号・昭41年(ネ)2023号 判決
第一審原告は、本件公正証書には協和食品株式会社の代理人として署名押印したものであつて、契約条項に第一審原告の連帯保証条項がありその署名欄の肩書に「連帯保証人兼右賃借人の代理人」の表示があつたことは署名の際気づかず、また、もとより連帯保証人となることの依頼を受けず、連帯保証をする意思もなかつたものであるから、右のように、連帯保証条項があり、「連帯保証人兼右賃借人の代理人」の肩書の下に署名押印したとしても、これによつて連帯保証をする旨の意思表示をしたことにはならないと主張するもののようである。しかし、連帯保証条項のある公正証書の「連帯保証人」の肩書のある箇所に署名しながら連帯保証をする旨の意思表示をしていないと主張するのは当をえない。この場合、外部的には署名によつて「連帯保証人」第一審原告として表現されたものであるから、その署名によつて連帯保証をする意思を表示したものと認むべきことは当然であつて、第一審原告が連帯保証人となる意思を有しなかつたということはたんなる内部の意思の問題にすぎないものと認むべきである。このことは、やや趣を異にするが、普通保険約款の記載に気づかずこれによる意思を有しないで保険契約書に署名したとしても、その署名により約款に従う意思を表示したものと認められるとその軌を一にする。ともに表示行為はあるが、その表示が内心の意思と齟齬をきたしているにすぎないと認むべきものなのである。
上記認定の事実によれば、第一審原告は本件公正証書作成方の委任を受けるにあたり協和食品株式会社代表取締役鈴木正五郎から同会社の右公正証書上の債務につき連帯保証人となることの依頼を受けたことなく、したがつて、同会社の代理人として公正証書に署名するに際しては自らが同会社のため連帯保証人となるなどとは夢想だにしていなかつたものと認められる。しかし、それにしても、特定の契約関係を表示した文書に署名した以上文書記載のとおりの契約関係に従う意思を表示したものといわざるをえず、連帯保証条項のある契約書の「連帯保証人」の肩書のある箇所に署名した以上連帯保証人となる旨の意思を表示したものと解せられてもやむをえないのである。第一審原告は第一審被告と協和食品株式会社との間の建物賃貸借契約につき保証人として同会社と連帯して債務履行の責に任ずる旨録取した本件公正証書の連帯保証人の肩書ある箇所に署名押印したのであるから、これにより第一審原告は右の連帯保証の意思を表示したものというのほかなく、その意思表示がないとする第一審原告の主張は理由がない。
(長谷部 岡田 舘)